黒鉛の削り跡

アニメ見たりアニソン聴いたりした人が書いています。

18ifの最終回について語りたすぎませんか?

今期は面白いアニメが多くて楽しい。

至極の一作は見つけられただろうか。
個人的には「URAHARA」とか「Infini-T Force」、「宝石の国」や「ネト充のススメ」と挙げるとキリがない。

そんなまだまだ気になる作品はあるが、やはりアニメとは最終回まで見てみないとその評価を下しにくいものである。

ファーストインプレッションはそこまで響かなかったがいつの間にかココロの拠り所になっているようなアニメ。

これとか

これとか

は定番としても

これとか

これとか

この辺の作品、心に残ってますよね。

 

そして、2017年夏クールに現れた新生であるアニメ「18if

周りでは見ている人間が少なかったので何とか見て欲しいという思いを込めてここにその思いをしたためるとしよう。

 

以下、ネタバレ有り

18if.jp

 18if とは

 

18ifは2017年の7月から放送されていた伝説のアニメである。

原作はソシャゲだそうだがそこに触れたことはない。

恐らくこのアニメも特に関係がなさそうである。

 

さて、このアニメの特徴といえば”各話監督制”であり、毎回全く違うデザインのキャラクター達が異常な個性の世界を渡り歩くお話だ。

眠り姫病に冒された"魔女"と呼ばれる女性達を主人公が眠りから目を覚まさせていく、というのが大まかなストーリー。

各話監督制といえば「迷い猫オーバーラン!」が有名だが、あのアニメとは根本から違うように感じる。

まぁとりあえず公式サイトのストーリーをざーっと見てもらえればわかる。

http://18if.jp/story/

場面写真を見た感じで大体察して頂けるとは思うが、作画は怪しい。

しかし、それよりも唐突な3DCG回や唐突なハードボイルド展開などそんなことは(あまり)気にならなくなるような圧倒的なお話が毎回11話まで繰り返されていく。

 

個人的には新田恵海さんが堕ちたアイドルを演じているのが本当にすごいと思いました。

 

そんなそれぞれの魔女達のお話は誰かが語ってくれるだろう。

七つの大罪とか皆知ってるからもういいでしょ。

ここで私が語りたいのはこのアニメの最終回、およびその近辺のお話についてである。

 


18ifの最終回

 

最終回1話前、12話のサブタイトルは「魔女大戦」。

このサブタイトルだけならば、今までに登場した魔女達が何かのキッカケで大戦を起こすのか、と思いがちだが特にそういうわけではない。

眠り姫病から覚めた魔女達が自身を救った主人公ハルトを救うために結束し、ハルトはこの騒動の原因であるイヴに戦争(みたいなもの)を仕掛けるという話である。

 

 大砲やミサイルまでなんでもござれで割とチカラも入っているカオスな回なのだが、コレは最終回ではない。

ついでに主人公には特に戦闘能力はない。

だが、これまで救ってきた様々な夢世界の魔女達の力を借りることによって、この絶体絶命のピンチを乗り越え、強大な敵であるイヴの向こう側にある扉に辿りつくのである。

 

正直この展開でもうお腹いっぱいだ。

作画は勿論厳しく、バトル要素も頑張ってはいるが昨今のアニメのクオリティからいうと物足りなさを感じる。

とりあえず、こういう展開であったことを念頭において欲しい。

 

そして最終回で主人公はイヴの向こう側の扉に入ることに成功する。

ここまでくると最終回は一体何をするのかと思うことだろう。

私も思った。

  

最終回で主人公はイヴの正体を知る。

イヴとは一体何者なのか、主人公の精神は一体どこにあるのか。

そういった問題を回答してくれるのがこの最終回なのである。

 

 

イヴと対面した主人公は対話を始めるが、イヴはやはり人間を滅ぼさんとする。

ここでまたハルトが助けた魔女たちが登場する。

魔女たちはハルトを助けたいと語る。

おお!ついに魔女大戦か!?!?!?

 

そうではなかった。

 イヴが持つ倫理感を現代の世を生きる魔女達が懐柔していくのだ。

 

イヴは所謂ステレオタイプな女性のあり方を信じている。

だからこそ人間を滅ぼすのだ。

 

しかし、現代の人間が持つ価値観は多種多様、それぞれがそれぞれの自意識を持ち自身と他者、社会とのあり方を許容していくことができる世界に生きている。

イヴが生まれた、イヴが生きていた時間とは価値観がその根本から違うのだ。

ここがこのアニメの肝だ。

 

夢世界において、自身の夢は叶えられる。

 

それは他者を受け入れなくても良い世界だ。

自身が思うがままに創り上げられるその世界で、他者を許容する自分になったり他者を排斥したりと魔女は己を肯定していく。

それをハルトは時には否定し、時には肯定し様々な方法でその夢から魔女達を目覚めさせていく。

それに特別なチカラは必要ない(ちょっと必要だったかもしれない)。

魔女たちはハルトから貰ったその想いをイヴにも伝えたのだ。

 

イヴは今まで経験したことのない多様な価値観に触れることによって、自身の知らない他者がこんなに存在する世界に自身の子である人間が生きているということを認識した。

魔女とハルト達の活躍によって人類は救われたのである。

  


イヴ

イヴ - Wikipedia

イヴ、それは原初の人間の一人であり、アダムの肋骨から生まれた人類最初の女性である。

旧約聖書によるとイヴは蛇に唆され、アダムと共に知恵の樹の果実を口にしてしまう。

そうして知恵を得た二人はエデンから追放され、その後の人間は知恵の果実を口にしたことによって得た痛み苦しみを背負うことになってしまった。

女性であるイヴが侵した罪によって、女性は男性に服従するようになったと語る。

アダムと共に原罪をうけたイヴは出産の苦労という罰に始まり、夫の支配下におかれることとなった。

この思想こそ18ifのイヴが恨み、彼女が人類を滅ぼさんとする所以である。

 

つまり18ifのイヴは自身が産み出した原罪を清算するために、その子である人類を夢世界に連れて行こうとしたのである。

 

 イヴの時間

イヴの時間 劇場版

イヴの時間 劇場版

 

イヴの時間」は2008年に配信され、その後完全版が劇場で公開された3DCGアニメである。

このアニメのキャッチコピーは

「未来、たぶん日本。“ロボット”が実用化されて久しく、“人間型ロボット”(アンドロイド)が実用化されて間もない時代。」 

というものである。

ヒトとアンドロイドを区別しない喫茶「イヴの時間」で様々な話が繰り広げられる。

 人間が自分とは違う他者を否定的にとられることによって生まれる感情や起こす行動がヒトとアンドロイドの関係性を通して描かれている。

この世界でアンドロイドは家具として扱われているが、「イヴの時間」ではそのようなことは禁止されている。

自身が思う他者をその空間では受け入れることがその空間にいるための資格なのである。

超傑作なので見て欲しい。

 

なぜここでイヴの時間なのか。

イヴの時間が描く、ヒトとアンドロイドのあり方は18ifにおけるイヴの怒りの根源に迫る話であると考えるからだ。

 

古今東西様々なアニメで自身と他者のあり方については描かれてきた。

というか大体のアニメはそういう話が描かれている。

 

しかし、友情や愛情ではない、人類の尊厳や人間の根源から生まれるその関係性を直接的に描いている作品はあまりないのではないかと思う。

そこで繋がる作品が「イヴの時間」と「18if」である。

 

ヒトとアンドロイド、イヴと人類

イヴの時間におけるヒトとアンドロイドとは意識という共通部分を除けば構成要素において同じ部分は存在しない。

だが、その唯一の共通点こそが他の垣根を超えてその存在を許容するための大きなポイントとなっている。

 

18ifはどうか。原罪を侵した根源であるイヴ、夢世界に魅入られた魔女、 この両者は世界と自身のギャップを憎んでいる。

ハルトの働きかけによって魔女達が受け入れた世界は、何かが変わった世界ではない。

自己の認識が変わっただけなのだ。

世界への変革ではなく認識、受け取り方の変化によってその世界を許容するのだ。

魔女がイヴに訴えかけることも同じことだ。

最後にイヴが望むのは、自身が眠っている間に人間が重ねた時間を知ることだ。

 

アンドロイドはヒトが産み出した。

アンドロイドにとってのイヴはヒトである。

ヒトが産み出したアンドロイドに対してヒトが持つ感情とイヴが人類にもつ感情は元来同じものなのではないだろうか。

 

イヴが産み出すものは未来であり、可能性である。

それによって起こる改革は、世界に、個人に未知の差異をもたらす。

そこにまず最初に現れるものは相対的二元世界、二元論で物事が語られるようなものだろう。

アダムとイヴが食べた知恵の果実のなる木は「善悪を知る木」。

人の意思において善悪が産まれていくのはこのためであり、これこそが現代の人を人たらしめている。

聖書の世界は二元論ではなく神の視点からの一元論と言われているが、実際にそれを判断する人々達の議論は一元論的にまとまるはずもない。

そういった人々の感情のゆらぎをアンドロイドは受け継いだ。

ヒトが受けてしまった罰を、ヒトから産み出されたアンドロイドは背負っていくのだ。

アンドロイドがヒトに縛られる世界において、アンドロイドが求める救いは何なのだろうか。

その辺はイヴの時間を見てほしい。

 

では、18ifにおける救済とは何なのか。

18ifの最終回の終盤、全てを知った、受け入れたイヴがハルトと共に最後に向かう先は"時間と空間を超越した世界""、この世界から隔絶された世界、そこは約束の地なのだろうか。

 

18ifが見る救済

最終回ED直前のカットの一つ前に受胎告知の絵画が映る。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/93/Leonardo_da_Vinci_-_Annunciazione_-_Google_Art_Project.jpg/800px-Leonardo_da_Vinci_-_Annunciazione_-_Google_Art_Project.jpg

大天使カブリエルが聖母マリアの前に降り立つシーンだ。

この聖告によって聖母マリアはイブとなり、神の子を宿したマリアは原初のイヴが侵した罪を救済することになるのである。

神に追放されエデンを出たイヴは、後の世にてマリアが受けた受胎告知によって救われる。

この時聖母マリアが身ごもった子供がイエス・キリストであり、後の世で神と同一視される存在である。

 

18ifにおいて魔女たちに与えられた救済は「ありのままの自身の受け入れること」であろう。

様々な媒体でその思考については語り尽くされてきたことであろう。

自身と他者の差を許容するのは他者ではなく自身。

自身の意識こそが己の精神世界を構築する唯一のファクターであり、他者意識を認識でし受け入れることができるのは自身の意識だけなのだ。

内面の自由を他者に侵害された時、自我は傷つき、世界との関わりを絶とうとする。

それをつなぎとめるのがハルトだ。

 

男性であるハルトが「眠り姫病」に冒されている。

ハルトは"姫"なのだろうか。

現実世界のハルトの容姿は確かに男性だ。

果たしてハルトは人間だったのだろうか。

夢世界のハルトは男性的ではあるが、現実世界の彼は"姫"となっている。

聖書に描かれている神は、どちらか両性にかたどられているが現実の人間のような絶対的な生物学的な性のあり方ではない。

人間の尺度で語るものではないとされている。

ラストシーンでハルトはアダムであったのか、という問答が行われる。

それに対して明確な回答は得られない。

しかし、魔女たちを"救済"し、イヴをも救済したハルトが扉の向こうで約束の地に旅立ったとするならば、彼はアダムではなく‥。

 

聖書にネコがほぼ登場しないという話は有名だろう 。

しかし、この話には毎回ネコ(のおっさん)が出て来る。

これこそがこのアニメがタダの聖書のなぞりではないことを示しており、ハルトが旅立った先の世界で彼が何を成し遂げるのかを導くヒントになるだろう。

 

ハルトが旅立った世界は現世とは異なる理に支配された世界であるが、それでもそこは夢世界。

夢世界は夢を創り出す存在がいなければ存在しない。

18ifの13話を通してハルトは眠った魔女とイヴを目覚めさせた。

主人公がこの世の理を離れた後にめぐる世界で、目覚めさせていく可能性、救済する世界とは一体何なのだろうか。

 

18ifの最終回を見た私が言いたかったこと

なんだかんだと話してきたが、この18ifというアニメの最終回がどのように素晴らしかったかという話はあまり綺麗にできていないような気もする。

ここまでで伝わっていれば嬉しいが書きなぐっているのでイマイチまとまっていないかもしれない。

 

アニメの最終回、今まで様々な冒険を重ねてきた主人公が諸悪の根源と対峙した時、どういった展開でそれを懲らしめるのか。

恐らく我々の中にはある程度のテンプレートがある。

このアニメはそんなテンプレートをなぞったりぶん殴ったりと様々な方向に独自の感性を表現している。

最終回近辺での敵だったものが味方となり最終回に駆けつけるという展開はよくありがちだが、主人公が何もせずにそのまま悪役が勝手に墜ちるという展開はなかなかに刺激的だった。

それこそが対話による自身の受容であり、他者の許容を示している。

暴力による解決ではなく、現在の自身を他者とのあり方の上で認識すること、それを受け入れ自身の意思による解決を望むこと、これこそがこのアニメの面白さであろう。

 

各話監督制が産み出す、それぞれのキャラクターはもはや別の作品のキャラクター達のように見える。

しかし、それは12話によって統合され、13話によって世界を救う手立てとなる。

 

この話に私はしびれた。

18ifロスがあったくらいに、私はこの作品が面白いと思った。

それが言いたかっただけである。

 

18ifAmazonPrimeで全話見れるので気になった方は是非見て欲しい。

ただ、もしキミが作画厨なのであれば、それだけは諦めてくれ。

 

 イヴの時間の話はいらない?イヴの時間の話もしたいじゃないですか…

18if Vol.1(Blu-ray Disc)

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